header

5−2 英文契約書の特殊性

(1)国際取引環境の多様性
 国際契約の主体は、様々な文化・商習慣を背景とする個人・法人から成ります。日本の常識が、契約相手の常識とは限りません(むしろそうでない場合が多いでしょう)。多様な取引主体を想定した国際ルールが存在し国際取引ではそのルールが標準となっているが、多くの場合において、日本の国内ルールとは異なります。
 このように取引上の常識を共有しない主体が、合意を形成しようとするのですから、国内取引以上に明確にしておく事項は多く、それを客観的に文書化しておく必要性が高くなります。

(2)国際取引では、契約書がすべて
 英文契約書には必ずといっていいほど記載されている文言があります。 “entire agreement” の文字。 これは「合意された事項はすべてここに書いてある」という意味です。裏を返せば、契約書に書かれていな事項については、当事者が合意にいたらなかったということです。つまり、紛争が生じた場合は、たとえ口頭での合意があった場合であっても契約書に書かれていない以上、合意はなかったと推定されます。言った、言わないの争いにおいて、合意を主張する側が両者の間に合意があったことを証明する必要があるということです。相手が争っている場面においてかかる証明は容易ではありまん。

(3)裁判管轄、準拠法、仲裁条項
 国境をまたぐ国際的な取引では、紛争解決(Dispute Resolution)条項が重要な意義を有します。
 紛争解決条項とは、裁判管轄、準拠法、仲裁を意味します。
 裁判管轄(Jurisdiction)とは、契約から生じる紛争にそなえて裁判をする裁判所(国)をどこにするかの合意を意味します
 準拠法(Governing Law)とは、その契約について適用される国(若しくは地域)の法律を意味します。
 仲裁(Arbitration)とは、当事者の合意(仲裁合意)に基づく、第三者(仲裁人)による紛争解決を手続をいいます。仲裁判断は確定判決と同じ効力があり、当事者は拒否することができない一方、強制執行手続が必ずしも整備されておらず、控訴や上告等の不服申し立ての制度はないという特徴があります。
参考:通常裁判手続きと仲裁手続きの比較 

 これらの条項をどのように合意するかは、国際取引契約においては交渉の要となることも少なくありません。

 一般的には、外国で裁判を行うのは多大な労力と費用がかかりますので、裁判管轄は自国(もしくは訴訟に対処可能な人材の存在する支店のある国)にしたいところです。訴えられた相手(被告)の国で裁判は行うというクロス条項にすると、提訴に抑止力が働きます。